第15回「誤嚥性肺炎予防」

公開日:2023/06/29

 今から約25年前、口腔ケアが誤嚥性肺炎予防するということが発表されました。大変画期的な話で、医療・介護の世界に大きな衝撃を与えました。と言っても、その論文が発表される数年前から「老人ホームで口腔ケアをしていると発熱発生をする高齢者が減る」などということは言われていました。ですから、集大成として論文が発表された時は「来たな」と思いました。個人的な話ですが、私が訪問歯科診療を始めた時期と同じ時期なのでよく覚えています。では、なぜ口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できるのかを考えてみましょう。

1 誤嚥性肺炎3つのリスク

誤嚥性肺炎には3つのリスクがあります。①口腔内細菌が異常に多いこと、②誤嚥、そして③全身の抵抗力の低下です。口は消化器の入り口であるとともに呼吸器の入り口、つまり肺の入り口でもあります。その口が不潔で細菌が異常に多く存在していれば肺炎のリスクが高くなることは想像できると思います。また、誤嚥性肺炎ですから誤嚥を起こすことで発症リスクが高くなります。誤嚥とは、食べ物・飲み物・唾液といった本来消化器官(食道、胃など)に入るものが気管に入り、声門を超えてしまった状態です。少し似た言葉に「誤飲」があります。これは赤ちゃんがマグネットを飲み込んでしまったというように、本来食べてはいけないものを飲み込むことです。そしてどんな病気でもそうですが、全身の体力や抵抗力が落ちてしまうと症状が発症しやすくなります。

誤嚥性肺炎は誤嚥をしたらすぐ発症するというものではありません。口の中が清潔であれば発症リスクは低くなりますし、体力や栄養状態などが良好であれば発症リスクが減ります。実際、高齢になるとほとんどの人は大なり小なり誤嚥をしています。その人たちがみんな誤嚥性肺炎になるわけではありません。誤嚥=肺炎とは考えないでください。

 

2 口腔ケアと誤嚥性肺炎

前回お話ししたように口腔ケアには3つの意義があります。1つは細菌を除去するということ。2つめはしっかりとお口の周り(中や外も)を刺激するということ。そして3つめは、ケアの側面があるということです。

では、口腔ケアと誤嚥性肺炎予防の関係を見てみましょう。異常な口腔内細菌数であれば肺炎リスクが高くなります。口腔ケアの目的は、しっかりこすって細菌(バイオフィルム)を除去することですから肺炎リスクを減少させます。誤嚥があると肺炎リスクが高くなります。口腔ケアでお口の周りを刺激することで、サブスタンスPが増加し飲み込みが良くなります。飲み込みが良くなるので誤嚥のリスクが減ります。さらに、しっかりケアをしていくことで食欲が増し、摂取量が増えれば全身の抵抗力が向上します。つまり、口腔ケアの3つの意義がそれぞれ誤嚥性肺炎の3つのリスクを軽減していくのです。「お口をきれいにしました」は口腔ケアの一部でしかありません。「お口を清潔に保ち、しっかり刺激をして飲み込みの機能を向上し、さらに食べられる口づくりで全身の抵抗力を向上していくこと」が口腔ケアの誤嚥性肺炎予防効果なのです。

 

3 最高の口腔ケア

さて、しっかり噛んで食べるということについて、もう一度考えてみましょう。しっかり噛んで食べることによって唾液が多く分泌されます。唾液の洗浄作用や殺菌・抗菌作用によってお口の中の細菌を減少させていきます。また、噛んで食べることで口の周囲はしっかり刺激されます。歯や歯ぐき、舌や頬などお口全体が刺激されます。それは口腔ケアの比ではないくらいに。それにより飲み込みの機能が維持向上します。さらに、口から食べることで栄養状態は良くなり、全身の抵抗力は向上します。

もうお分かりですね。最高の口腔ケアはしっかり噛んで食べることなのです。しっかり噛んで食べることで誤嚥性肺炎の予防になるのです。しっかり噛んで食べることが難しくなった人こそ口腔ケアが必要なのです。

 

次回は、口腔ケアのその他の効果についてお話していきましょう。

歯科医師 五島朋幸

 

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