第24回「食べることと薬」

公開日:2024/05/22

食べることと薬

 現代の日本人で薬を飲んだことがないという方はいないでしょう。抗生剤や風邪薬、痛み止め、血圧の薬に糖尿病の薬など処方されて服用されている方も多いかと思います。他にも市販の薬など。当たり前に自分たちの周りにある薬ですが、いつ頃からこのような薬を服用するようになったと思いますか?例えば抗生剤が初めて製品化されたのは第二次世界大戦中の1942年。意外ではありませんか?人類が抗生剤を飲み始めて100年も経っていないのです。まだまだ人間は薬と付き合い始めたばかりなのです。
 そんな薬は、私たちにとってとても有益なものです。ただ、使い方を考えないとマイナス要因も出てきてしまいます。それがお口の環境や食べることにも影響してしまうことがあります。今回は薬が食べることに与える影響を考えてみます。

1 食べることと自律神経

少し難しい話になりますが、あなたは自律神経という言葉を聞いたことがあるでしょうか。交感神経と副交感神経というものがあるのですが、興奮したり緊張しているような時に働くのが交感神経、リラックスしているときに働くのが副交感神経です。例えば、重要な発表会の直前、心臓の音がバクバクしているのが聞こえ、体がこわばり、口は乾き、脂汗がにじんでくるような状態は交感神経が働いている状態です。発表が終わり、ホッとしてソファーに座り込んだ時、体の力は抜け、口の中に唾液が流れ出てきて「あ~、お腹空いた~!」なんて思う時は副交感神経が働いている状態です。そうなんです。緊張したり興奮したりしている時(交感神経優位)は食欲が抑えられ、リラックスしたりしている時(副交感神経優位)に食欲が出て、食べ物が食べられるのです。

では、副交感神経神経の働きを抑える薬を飲んだらどうなると思いますか?

 

2 副交感神経と抗コリン薬

ちょっと難しい話をしましたが、口から食べ、食道、胃、腸を通って排泄するという一連の流れを活発化させるのが副交感神経です。唾液が多く出てきて、胃腸の動きも活発化し、排泄もスムーズにいくのは副交感神経のおかげなのです。

実はこの副交感神経の働きを抑える薬剤があります。それが抗コリン薬です。そんな薬知らない、と思っている方はいませんか?あなたがよく知っている風邪薬や胃腸薬、睡眠薬や花粉症の薬にも抗コリン薬はあります。この副作用で唾液が減ってしまい、食事がうまくとれず、口腔ケアをしっかりやらなければならない人もいます。おなかの調子が悪く、市販の胃腸薬を飲んだけど食欲がわかないという人もいます。

もちろん薬ですから、主な症状を抑えるために有用なものです。しかし、副作用もあります。だからこそ薬の適正服用は重要なのです。

 

3 味覚障害と薬

お口で食べ物の味を感じるのは「味細胞」というものがあるおかげなのですが、この味細胞を作っていくときに亜鉛という物質が必要になります。ところが、薬によっては亜鉛の体への吸収を抑える性質のものもあります。前述の抗コリン薬もそうですが、鎮痛剤や高血圧の薬、糖尿病の薬など多岐にわたります。その薬剤のせいで味を感じにくくなるという症状が出てしまうことがあります。

その他にも、食べることに影響を与える薬剤はあります。もちろん、必要があって薬は使用されるものですから適正服用していくのは問題ありませんが、過剰な服用やあまりにも多い種類の薬の服用には問題があります。薬の開発はめざましく、現代技術の結晶とも言えます。しかし、副作用があることは考慮しなくてはなりません。それがお口の環境や食べることに影響することが多くあります。冒頭にお話ししたように、人間が現在のような薬を飲み始めて100年も経っていません。まだまだ薬との付き合い方を考えていかなければならない時期なのです。

食べることに何らかの問題が出た時、「薬の影響かな?」と思う視点は重要です。そのためにも、相談できる薬剤師さんを持っておきましょう。

 

さて、次回は歯と入れ歯についてお話しします。

歯科医師 五島朋幸

 

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