第35回 「食事動作」

公開日:2025/02/26

食欲不振 食べにくい 高齢者 片麻痺の食事

現場で疑問があり、インターネットや本で調べることはあると思います。食事場面での疑問があった時、調べてみると食事姿勢や食事介助、または食具に関しては多く出てくると思います。しかし、「食事動作」という話はあまり出てきません。介護と直接関係しないと思われているのかもしれませんが、私が作業療法士(OT)の先生から聞いた話で、これは介護者が知っておくといいなと思うものが1つあります。今回は食事動作観察のワンポイントについてお話します。

食事動作の基本

あなたが右利きで箸を使ってご飯を食べることを想像してみてください。左手でご飯茶碗を持ち、右手の箸でご飯をすくい、口に近づけて口に入れる。あまり意識していませんが、日常何気なくやっている動きですね。さあ、この動作、手首を中心に意識してみてください。まずはご飯をつまむ時、ご飯をすくう時、そして口に入れる時。手首が外から内側に動いていくことがわかりますか?と言っても手首の関節が動いているのではなく、腕の動きで手首を動かしているのですが、回転するように動きます。もちろん、カレーライスなどをスプーンで食べるときも同じです。肘の動きで上下運動はありますが、手首だけ見ると外から内への回転が生じています。これが食事動作の基本になります。

ご飯をすくう 手首の動き 箸のもちかた

ものをつまむ力(ピンチ力)

問題は、箸やスプーンをそのように持てない方です。高齢の方の中には「つまむ力(ピンチ力)」が低下してしまい、箸やスプーンを正しく持つことができず、下図のような握るタイプの食具を用いている方がいます。そこで、この食具を用いている方の動きを想像してみてください。正しく持てていた時は最初に手首を外側にしてご飯をつまみ、すくっていく動作ができました。しかし握ってしまうと内側には返せるのですが、外側には回りません。その結果、食事をすくう動作がとても難しくなってしまいます。これでは食べられないのでなんとか肘を上げたり、上半身全体を傾けたりしながらスプーンですくえるような角度にして食べ物をお皿からすくい上げているのです。おわかりになりますか?

自助具 補助具 食具

このような不自然な姿勢で食べるのは本当に大変なことです。もちろん、このような自助具があるおかげで食事が自立できるのであればご本人や介護者にとっても良いのですが、決して食べやすいものではないということは知っておいていただきたいのです。普通に食べる動作よりも全身を使っているので疲労してしまいますし、食事自体を楽しめないでしょう。最悪なケースでは「もう食べなくていい!」なんて言い出す方もいます。なぜそんなことを言い出すのか、の理由がわかっているのと知らないとでは大きな差が出ます。

箸やスプーンが持てない原因とは?

 では、箸やスプーンが普通に持てない原因を考えてみましょう。前述したように、つまむ力(ピンチ力)低下が原因ですが、これは手のひらの親指の付け根の部分(母指球)の筋肉低下です。この筋肉が低下するとペットボトルの蓋が開けられないとか、縫い物ができなくなったとか、ペンで字が書けなくなったりとか、指でOKサインができなくなったりします。

 手根管症候群という疾患によって筋肉低下を起こすこともありますし、高齢により全身の筋力低下の結果として起こることもあります。手根管症候群であれば整形外科の受診が必要ですが、加齢による筋力低下であれば鍛えておくこともできます。私たちのグループでピンチ力を鍛えるために「洗濯ばさみアート」がいいのではないかという意見がありました。洗濯ばさみを利用していろいろな作品を作っていくのです。洗濯ばさみを開くのはまさにピンチ力です。調べていただけるといろんな物が出てきます。超大作になると母指球を痛めてしまいそうですが、楽しく鍛えられるのであればいいですね。

プロフィール

五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。 ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。 「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。

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