第1回 「はじめまして」

公開日:2025/01/20

理学療法士が考える

このたび『理学療法士が考える在宅介護』というタイトルにて月に一度のコラムを書かせていただくことになりました、理学療法士の大渕哲也と申します。理学療法士の資格を取得して、すでに40年になります。コラムの開始にあたってまずは簡単な自己紹介と、これから書いていく内容について紹介したいと思います。
現在私は、新潟県内の民間介護事業所~グループホーム運営会社に籍をおき、現場支援業務に就いています。また社外の活動として、福祉用具関係団体や高齢者医療介護の係る諸団体の活動支援、民間のセミナー事業社への研修出稿、書籍執筆や当コラムのようなweb上での執筆活動、医療福祉団体や医療機関介護施設からの研修養成や現場コンサルタント業務などにも随時取り組んでおります。

理学療法士としての初めての仕事

近年は理学療法士/作業療法士の有資格者も大変に増えて、一般の方々にも広く知られる資格になっています。しかし私が理学療法士資格を取得したころはまだまだ知られておらず、有資格者も非常に少ない時代でした。多くの病院から求人も出されていましたが人手は全く足りていませんでした。

そんな社会情勢の中で、私自身の最初の就業場面は『要介護高齢者の在宅療養生活の支援』でした。というのは、最初の就職先が某県の県庁環境保健部公衆衛生課老人保健対策班、というところだったのです。当時、1973年以来無料だった老人医療自己負担額が少額ながら有償となり、その見返りとして市町村が高齢者へ健康診査・健康教育・健康相談・健康手帳の交付・機能訓練・訪問指導といった「老人保健事業」を行うことになったのです。

6つの事業のうち「機能訓練事業」というのは脳卒中後遺症者さんなどを対象に市町村の送迎で保健センターに集まっていただき機能訓練を行う事業、「訪問指導」というのは在宅で過ごす寝たきり者さんのもとに訪問して療養生活について指導アドバイスを行う、といった事業でした。

現在、介護保険サービスとして行われているデイサービス/デイケアや訪問リハビリテーションのイメージに近いものと言ってよいでしょう。市町村保健センターで保健師さんが事業を担うことになったわけですが、初めての業務内容に取り組む市町村保健師さんへの支援として、県が理学療法士を雇用したわけです。

突然、養成校卒業後免許取得直後に「市町村の保健師さん方に指導/アドバイスする立場」となった私でしたが、いや、参りました。何せ『理学療法士養成校4年間で学んだことがほとんど通用しない』世界でしたから。学校で学んだのは基本、『病院のリハビリテーション室内でどうするか?』ということであって、座敷の布団の上で寝ている寝たきり者さんと面倒を看ているご家族さまに何をどう指導アドバイスすればよいのか?なんて言うことは教えてもらっていません。

理学療法士の持っている技術をほんの少しだけご家族さまに伝えたとしても、それがご家族さまにとって「新たなストレス」になってしまうであろうことは新人の私にも容易に分かりましたしね。真っ青になって、実践していらしたごく少数の“先輩”についたり、いろいろな実践報告を読み漁ったり、必死に勉強してこなしていました。その後、医療機関のリハビリテーション室勤務した時期もありましたが介護保険制度開始後はもっぱら、介護保険関係の職場で要介護高齢者さまに対する生活支援の仕事に従事してきました。

これからの話

 身体的リハビリテーションの専門職である理学療法士がご自宅で過ごす要介護高齢者さまとご家族さまに対するコラムを書くとなると、その内容は「身体的機能訓練の方法」とか「身体介助方法」といった内容となるのでは?とイメージされるのが普通かと思います。

もちろんそのような内容にも触れることとなるでしょうが、私としては“理学療法士”と言うだけではなくそれ以前に、要介護高齢者さまとそのご家族さまの支援に携わる第三者というより大きな立場からのお話にしたいと思っています。第三者、つまり“他人”ということです。

その一点だけで「当事者でもない他人が好き勝手なことを言うな!」「医療職からの理想論を聞かされても何の役にも立たない!」といった想いが、特にご家族さまにあるではないでしょうか?それも当然の想いかと思います。しかし同時に、余裕のある第三者の専門職だからこそ、気付くことのできること・おそらく多くのご家族さまは知らないであろう大切なこと・長期的にみて本人さまご家族さまともどもにより良い状況になっていっていただくために、今、大切なこと、そういったことをお伝えすることもできると思います。

何にしてもコラムの内容は、「要介護高齢者ご本人さまのため」だけではなく同時に、「精一杯のお世話にあたっているご家族さまのため」のコラムでありたいと思います。さらに言うとご本人さまとご家族さまを別々に考えるだけではなく、「ご本人さま/ご家族さま/ご親族さま」全体の『全体としての一つの家族/家庭』を支えることになる内容でありたいと思います。

具体的には、

・障害状態別在宅生活上のポイント

・介護技術のお話

・福祉用具や住宅構造など環境のお話

・褥瘡/拘縮/誤嚥性肺炎といった要介護高齢者さまに起こりやすい身体トラブルについて

・社会支援制度の使い方

・ご本人さまとご家族さま、ご家族さまとご親族さまといった家庭内人間関係のお話

などなど、もしかしたら理学療法士よりもより詳しい方もいらっしゃるかもしれないテーマについても、自身の学びや経験をもとに、綴っていきたいと思います。ある程度の長期にわたることも想定していますので、連載内容とは別に随時、「こんなことを聞いてみたい」といったことがありましたら、ピジョンタヒラのHPの「お問い合わせ」からご質問をお寄せいただけたら、なるべくお応えしていきたいとも思います。どうぞ、よろしくお願いします。

次回は、「在宅療養介護生活で大切にしたいこと」というテーマで、しかし「こうあるべき論」ではなく「そうだよねぇ」と共感いただける内容でまとめてみたいと思います。

プロフィール

大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。 急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。 現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。

Contents

第1回 「はじめまして」