第33回 「食事介助」
公開日:2025/01/27
たしかに自分でもよく言います!「食事介助は重要です」と。しかし、私自身食事介助をすることはほとんどなく、理論的背景はわかっているつもりですが、技術的には…疑問の余地ありです。そんな私ですが、あえて言います。食事介助はとても大切です。それによって食べられるようになる人、食べられない人が生まれてきます。
食事介助スキルスコア(FASS)
先日、ある病院の症例を聴く機会がありました。以前入院していた病院では食べることが出来ず、口から食べることは難しいと言われていた方がいました。その方が、「口から食べることに熱心に取り組んでいる病院」に転院をされました。すると転院初日から口から食べられるようになりました。もちろん、転院して数時間でその方の食べる機能がぐっと向上したわけではありません。食事介助です。
転院前の食事風景を拝見しましたが、ベッド上でベッドアップ(背中を上げる)だけでした。しかし、転院後は車椅子に座り、足底もしっかり固定され、肘の位置も安定し、食事介助をされる方も視線を合わせるようにして介助されていました。
食事介助とは食事環境調整の集大成とも言えます。この食事介助を客観化するために「食事介助スキルスコア:FASS」というものが開発されました1)(図)。
FASSは10項目から成立しています。項目の1~3はご本人(介助される人)の姿勢、体勢に関する内容、項目4は食事前の状態確認、項目5~10は介助する人の技術的な内容になっています。
まずは介助される人の体勢づくり。ポイントは2つです。首の角度と足底(足の裏)です。全身の体勢が安定していないと首周りの筋肉が緊張してしまい、上向きになってしまうことがあります。このままだと誤嚥のリスクが高くなってしまいます。もう1つは足底の固定。これはあなたでも経験があるかもしれません。カレースタンドや喫茶店など、地面に足がつかないような高い椅子がある所があります。こういった椅子には必ず足置きがあるのですが、あえて足置きを使わず、足をブラブラした状態で水などを飲もうとすると飲みにくさを感じます。もちろんあなたには十分な余力があるので、それによって飲めないということはありませんが、食べる機能が低下した人にとっては大問題です。
食事介助のポイント
介助者の技術として重要なのは、しっかり食べ物が見える状態で介助することと食事のペースの2つです。あなたが食事をするとき、食卓は見渡せて、どこに何があるのかがわかった上でご飯を食べたり、肉や魚を食べたり、野菜を食べています。見えてないと食べられません。
しかし、よくあるのは、介助される方の横に座り、横から食べ物がご本人の目の前に現れ、口に入れられるという場面があります。これでは食べる準備が全く出来ません。ですから、ご本人が食事全体を見えるようにセッティングし、そこから見えるように口の中に入っていく事が重要なのです。右側で介助するときは右手、左側で介助するときは左手というのも、自分で食べる時の状況を再現しているだけなのです。あなたは食事介助の場面を見ることが少ないかもしれませんが、真正面に座って介助している場面も多く見ます。とても不自然ですね。
そしてもう1つ重要なのはお口の中に食べ物を入れるペースです。これに関しては「何秒に1回」とかは全く言えません。ご本人の食べるペースがあり、その方によって全く異なります。ただ、ペースが早すぎて口の中に溜め込んでしまったり、飲み込んでいるのにペースが遅すぎたりというのはよくありません。その方の機能に合わせたペースで介助していきます。
このFASS、スコアですので点数化して評価するものなのですが、これ自体が食事介助の教科書とも言えます。作成段階では重要と思われる食事介助項目が17ありましたが、その中でも統計的に介助と食事との関連の深い10項目が抽出され完成したものです。食事介助の必要があるとき、ぜひ確認をしてください。
次回は、その方の機能と食べられるものに関して簡易に判定できるSSK‐O(エスエスコ)をご紹介します。
- A Nagano, K Maeda,et al,Feeding Assistance Skill Score: development and verification of reliability and validity.Eur Geriatr Med.2024 Jul 15. doi: 10.1007/s41999-024-01016-8. Online ahead of print.
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」