第34回 「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
公開日:2025/02/07
介護をされている相手の方の食べる機能が低下したとき、あなたならどのようなお食事を提供しますか?柔らかくしたり小さく切ったり。とろみ剤を混ぜて少しとろみを付けるということをするかもしれません。もちろん、そのような方法はあります。ただ、相手の方の機能はどのような状態でしょうか。その機能にあった食事が提供されているでしょうか。もちろん歯科や管理栄養士さんのアドバイスがあれば問題ありませんが、すべての現場でそのような介入ができるわけではありません。
このような現状の下、私たちのチームでは簡易に、そしてざっくりですけれどもどのような食形態のものを提供すればよいのかという判定表を作成しました。これをSSK-O(エスエスコ)判定表といいます。今回は、このSSK-Oを解説しながら、どのようなものを提供できるのかを知っていただきたいと思っています。
介護職の食に対する困り事とは?
2010年くらいの話です。東京都新宿区で地域の食支援を実践する多職種の会として「新宿食支援研究会」を立ち上げました。集まったのはいいものの、何をするかは決まっていませんでした。そこでケアマネジャーさんやホームヘルパーの方へ、食事に対して困っていることへの聞き取り調査をしました。その結果が下の表になります(複数回答)。

表1 介護職の食に対するアンケート
ホームヘルパーもケアマネジャーも1位「むせる」、2位「なかなか飲み込まない」、3位「口に溜めてしまう」でした。あなたはこの3つの症状、状態、判断できますか?そんなに難しいことではありません。見ていればわかります。そこで次のような判定表を作成しました(表2)。
SSK-O判定表
口が「良い」、「悪い」、のどが「良い」、「悪い」だけの2✕2の表です。実はこれだけわかればだいたいその方に提供する食事の形態の目処は立つのです。これがSSK-O判定表です。
と、言われても…という声が聞こえてきそうです。問題は、口やのどの良し悪しをどのように判定するかです。実はすでに言葉は出ているのです。「なかなか飲み込まない」「口に溜めてしまう」人は口が悪い人、「むせる」はのどが悪い人です。つまり、あなたでも判断できる判定表になっているのです。

表2 SSK-O判定表 ver.1.02
次に、図の食事形態の難易度(ピラミッドモデル)を見てください。判定表でⅠだった人はペースト食やゼリー食。Ⅱだった人は全粥、軟菜をベースにしますが、とろみを付けていきます。Ⅲだった人は、全粥、軟菜をベースにしますが、とろみはつけなくてよい。Ⅳの方は機能の低下はないので普通食ということになります。

図 食事形態の難易度(ピラミッドモデル)
いかがですか?たったこれだけのことです。もちろんパーフェクトでないのはわかっていますが、どのようなものを提供するかの目処が立つのは重要なことです。現場で遭遇するのは、食べる機能が少し低下した瞬間から全部の食品を柔らかくし、形をなくし、よくわからないけどとろみを付けるといった対応。もちろん、窒息や誤嚥のリスク回避をしたいという気持ちはわかりますが、ご本人の食の楽しみを奪い、栄養量も低下させてしまうことになります。
その方の機能にあった食形態を選択するためには、機能を評価する人(歯科医師や言語聴覚士など)と適切な食事形態を考えてくれる管理栄養士などが必要になります。しかし、在宅ケアの現場でその双方が揃うことは少ないのが現状です。そこで、ざっくりと機能評価し、ざっくりと食事形態の方向性を知ることが必要になります。
さて、この表はもちろん現場で活かしてほしいのですが、専門職である私たちがどうしてこの表に到達できたかも知っておいてほしいところです。じつは私たちも「食べる機能」という1つではなく、口が悪いのか?のどが悪いのか?それとも両方か?と考えながら評価をしているということです。あなたの介護の現場でもそのような目で見てみてください。
次回は、食事の動作について少し考えてみましょう。
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」
- 第34回「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
- 第35回「食事動作」