第12回「唾液の話」

公開日:2023/04/10

 私たちは口の専門家なので唾液(つば)の重要性についてはよくよく知っているつもりですが、皆さんにとってはどんなイメージでしょうか。口の中の水分?口がカラカラに乾かないようにするもの?食べ物を軟らかくするもの?もちろんそういう作用はあるのですが、もう少しだけ深く知ってほしいと思います。今回は唾液の話です。

1 唾液の分泌

健常な方の一日の唾液分泌量はどれくらいだと思いますか?1~1.5リットル。言葉でいうとイメージがわきにくいですが、500mlのペットボトル2~3本。結構多いですね。普段ごくごく飲んでいる気はしないと思いますが、これだけの量が毎日分泌されて、そのほとんどを飲み込んでいます。

この唾液量は年齢によっても異なります。20代で最も多く、30代以降で減少、70歳を超えると分泌量が半分以下になるといわれています。また、糖尿病であったり、血圧の薬など服用している薬によって分泌を抑えるものがあります。さらに、喫煙などによっても分泌量が減っていきます。

さて、健康な時でも口の渇きが気になる場面はありませんか?例えば重要な発表をする時など緊張するような場面。逆に、梅干しを見た時は両頬から唾液がジワッと流れ出る感じがありますよね。唾液の分泌はこのように、精神的なものとか環境によっても分泌量が変わります。つまり、一日中一定量がずっと出ているという訳ではなく、出たり、出なかったりとメリハリがあるということです。

この唾液を分泌する場所を唾液腺と呼びます。唾液腺は口の中にいくつか存在しますが、メインとなるのは顎下腺、舌下腺、耳下腺の3つです。顎下腺と舌下腺の唾液は舌の下から、耳下腺の唾液は左右上顎の奥歯付近の頬から分泌されます。この3つの唾液腺から同じようなものが同じような量が出ているわけではありなせん。3つの唾液腺の中で最も大きいものが耳下腺で、分泌量も多くなります。その耳下腺からはさらさらと水のような唾液、顎下腺と舌下腺からは少しネバネバとした成分の唾液が出ます。

 

2 唾液の役割

唾液は単なる水分ではなく、人間にとって大きな役割を果たしています。唾液の研究者も多くいるほど多彩な役割があるのですが、ここでは代表的なものをあげておきましょう。

まずは食事を食べるときの役割。口や食べ物を湿らせて口を動きやすくし、食べ物を柔らかくしていきます。もう1つ重要なことは、食べ物の中の味物質を溶かして味を感じやすくしていきます。口が本当に乾いているときにクッキーを食べてもパサパサして味も感じにくい…というのは想像できるのではないでしょうか。単なるごつごつしたものが口の中に広がり、甘さも感じることができません。だから口腔乾燥が味覚異常の大きな要因となります。

次に、口の中の洗浄や保護を行います。唾液があることで歯や頬や舌などの粘膜に食べ物がくっつくことを予防し、洗い流していきます。また、唾液のタンパクによって歯や粘膜表面が保護されます。

そしてもう1つ重要なことは、口の中の状態を一定に保ち、抗菌作用も持ちます。皆さんはむし歯がどのような状態で発生するかわかりますか?すごくざっくり言うと、歯垢(プラーク)中の細菌が食べ物の中の糖分を分解すると酸を作ります。チョコレートを食べた後などに酸っぱく感じることがあるのではないでしょうか。口の中が酸性の状態が続くと歯の表面が溶け出し、むし歯が発生します。この時、酸性だった口の中を中性に持ってくる役割が唾液にはあります。さらには、酸によって少し溶け出した歯の表面を修復する役割も持っています。また、抗菌、殺菌、抗カビ作用を持つ物質も含まれており、ウィルスなどの体内への侵入を押さえます。

このように、唾液には人体にとって重要な役割が多くありますが、近年、「ドライマウス(口腔乾燥症)」も取り沙汰されています。今回も述べたように、年齢や病気、薬などでも唾液の現象の原因になるのですが、その影響は小さくありません。食事が美味しくなくなり、食べにくく、話しにくくなります。歯科的には、むし歯と歯周病が進行してしまいます。しっかり噛んで、唾液をいっぱい出して美味しく食べていきたいですね。

 

次回は口腔ケアのお話をしていきましょう。

歯科医師 五島朋幸

 

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