第32回 「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」

公開日:2024/12/27

唾液腺マッサージ 口腔体操

これまで口腔ケアについても多くお話してきましたが、実はもう1つ、どうしても知っておいていただかないといけないことがあります。「機能的口腔ケア」です。おそらく、ピンとこない方のほうが多いと思います。幅広い概念なので先に具体例を挙げてしまうと、唾液腺マッサージ、嚥下体操、お顔周囲のストレッチやマッサージ。これらは聞いたことがある方がいると思います。ただ、口腔ケアとは思っていなかったのではないでしょうか。

口腔ケアの定義

口腔ケアの定義は、「口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上をめざした口腔より全身を考える科学であり技術」(日本口腔ケア学会)とされています。単純にお口の中をきれいにすることではありません。口腔ケアは、「器質的」なものと「機能的」なものに分けられています。

これまで多方面で口腔ケアについてお話してきましたが、これらは器質的口腔ケアと言われているものでした。一方、「機能的口腔ケア」とは口腔機能の回復、維持、向上に向けたケアの事です。個人によってその目標も異なるので、画一的なものはないのですが、先に挙げた唾液腺マッサージ、嚥下体操、お顔周囲のストレッチやマッサージについて少しお話をします。

1. 唾液腺マッサージ

唾液腺マッサージは、唾液腺を刺激することで唾液を出すことを促し、誤嚥予防だけでなく口腔内の自浄作用や乾燥の予防にも効果が期待できます。唾液をお口の中に出す場所(唾液腺)は多くありますが、その中でも主なものが3つあります(3大唾液腺)。それが耳下腺、顎下腺、舌下腺と言われるものです。この3つに対してアプローチしていきます。

唾液腺の場所 三大唾液腺

耳下腺は頬の後ろ側(耳の前方)に位置し、上顎に唾液を出す穴があり、顎下腺、舌下腺は舌の下から唾液を出します。もちろん、日常的に唾液は出ているのですが、高齢になり、体調の管理から薬の服用が多くなったり、緊張や痛みなど心身のストレスを感じると唾液分泌量は減ってしまいます。そこで、3大唾液腺を物理的に刺激することによって唾液腺の活性化や唾液を出すことを目的に行います。  耳下腺は耳の前方に位置するのでその部位をマッサージしていきます。これといった規則はありませんが、力を入れて痛くしないこと、また優しすぎて刺激がなさすぎるのも困ります。顎下腺、舌下腺は下顎の内側を親指で刺激するように押さえていきます。自分でやるとわかりますが、顎下腺、舌下腺の刺激はかなり強く感じるので優しく行います。

唾液腺マッサージ

2. 嚥下体操

いわゆる嚥下体操は、各所でアレンジをされており、多くのものが存在します。ここでは代表的なものを例に挙げておきましょう。

 まず深呼吸。飲み込む動作は、ほんのわずかな時間息を止めて食べ物、飲み物を食道に送り込む動作です。したがって、呼吸との関連は大きいのです。そこから首や肩を動かしていきます。飲み込みの動きは喉の奥の方だけではなく、首全体、さらには肩の筋肉まで利用しています。ここからお口周囲の動きに入ります。頬や舌、さらには発音発声練習もしていきます。そして最後に深呼吸で終了します。

 このような運動は、なんのために、どこに効果があるからということをしっかり意識してからやらなくては意味がありません。

<食べる前の準備体操について>

参考:健康長寿ネット/嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)

3. お顔周囲のストレッチやマッサージ

食べる機能が低下している人ほど、頬が硬くなっており、顎の動きも悪くなってしまいます。そして顔の周囲が硬くなるとさらに動きが悪くなり、食べられなくなるという負のスパイラルのなってしまいます。そこで私たち専門職も、食べる機能が低下した方には様々なマッサージやストレッチからアプローチしていきます。

 マッサージは唾液腺マッサージや嚥下体操と同じですが、ストレッチについてご紹介します。人差し指を口腔内に入れ、ゆっくり、やさしく外側に押し出していきます。このストレッチが必要な方は頬が硬くなっていることが多いので、ゆっくり押し出すことがポイントになります。

参考:はじめよう!やってみよう!口腔ケア/口腔内ストレッチ

次回は、食事介助について少しお話していきましょう。

歯科医師 五島朋幸

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