第3回 「状態別在宅介護生活のポイント① まだ自立レベルでお元気な方」

公開日:2025/03/21

自立 元気な高齢者

今回から6回程度の予定で「状態別在宅介護生活のポイント」をまとめていきます。状態別というのは主に「身体機能状態」の違い、ということになりますが、年齢としては75歳以上の「後期高齢者」さんが主な対象となります。もちろん、65歳以上74歳以下の前期高齢者さんにも当てはまるお話はたくさんあります。また、それぞれの身体機能レベルごとに、認知症の問題も重なってくることも珍しくありません。認知症の問題についてもその都度、コメントしていきます。

まだ自立レベルでお元気な方

お歳はとってきていてもまだまだお元気な方でも、若壮年者とまったく同じという訳にはいかないし、年々お歳をとって次第に衰えていくことは、むしろ当たり前のことです。お元気な状態を長く続けられるように、また自然な老化に備えて、生活を送っていく上での留意点をまとめていきます。

本人さまもご家族さまも「決心/覚悟」を持つ、ということ

 何も深刻にとらえる必要はなく、むしろ当たり前のこととして「そろそろこれからは、若かったころと同じようにはいかなくなってくる」ことを静かにもしっかりと認識することです。そして今はまだお元気で過ごせているとしても、その健康を少しでも長く維持していくためには、様々な心がけや配慮が必要になってくる、そして学んでいかないといけない、と改めて認識することです。そういう「改めての心構え」がないまま漫然と年月を重ねると、いつの間にか思わぬ老化の進行や疾病の発症悪化に驚くことになるかもしれません。

 もちろん心がけていても、突発的なトラブルが発生する事もあるでしょう。それでもトラブルが「想像もしていなかった」のか?「あり得ることと想像していた」のか?の違いで、トラブル後の対応もまた違ってくるでしょう。

 ご本人さまは「自分が歳を取っていく」ということについて『初体験』なのですし、子供さんにとっても「親が歳を取っていく」ことは『初体験』なのですから、初めて経験する事態についての決心/覚悟は必要です。

生活習慣病の管理

 高血圧症、糖尿病、高脂血症といった中年期以降にじわじわ進行していく「生活習慣病」を抱えている方は、治療~医学的管理をきちんとしていかないといけません。そして、「定期的に病院受診して検査を受け、薬を処方してもらう」といった病院通いだけではなく、生活場面の中で疾病を悪化させないような生活習慣を心がけるべきですね。高価な治療薬を服用しながら生活習慣で悪化させているのはもったいないですし、結果として進行悪化が抑えられなかった、というのでは残念です。当たり前のようですがこの点を強調するのは、「歳をとればとるほど、疾病の悪化が自覚しにくくなる」からです。

 また、こちらは整形外科領域で生活習慣病とは呼ばれませんが、中年期以降に「膝関節や腰椎の変形が進み、痛みが起きてきている」方も、同じような「管理」が必要になります。

歯科的管理

 もう一つ、お元気な段階から強調しておきたいのは「歯科的管理」です。「8020(ハチマルニイマル)運動」のことはご存じですか?1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している『80歳になっても20本以上自分の歯を保とう』という運動です。ポロポロと歯が抜けだしてから慌てて歯科受診しても間に合わないかもしれません。65歳前期高齢者となった時点からきちんと歯科的に管理し、歯みがき頻度や方法などを含めてよい生活習慣としていくべきです。そして虫歯や自歯のぐらつきなどトラブルの時は「すぐさま」歯科受診するべきです。歯科だけは間違いなく「きちんと受診しないと治らない、悪化していくだけ」なのですから。

栄養状態と食事摂取

 ごく大雑把な言い方として「前期高齢者のうちは“太りすぎ”、後期高齢者になると“痩せすぎ”の方が多い」と言われます。栄養状態と食事の摂り方は、ここまでに書いた生活習慣病や歯の問題と密接に関連してきます。歳を取ってくると若いころと「代謝」の様子が違ってきます。極端な言い方をすると、同じものを同じだけ食べても身体の反応は違ってくる、ということです。また、運動活動量も変わってきているはずです。

 さらに体重だけではなく、栄養の偏りが問題になる事も多いです。一般に高齢になればなるほど「炭水化物だけが多くタンパク質不足」になっていく、と言われます。身体を動かすエネルギー「炭水化物」、身体を作る「タンパク質」、生命機能を微調整する「ビタミンや無機質」、それに「脂分や塩分」、それぞれバランスよく「摂りすぎ」にも「足りなすぎ」にもならないように心がけるべきですね。

社会生活

 身体がまだまだお元気ならば「社会生活」についても意識を向けるべきです。近年、医療介護業界で『認知症予防のためにもっとも有効なのは?歩くこと、歩けること!』と言われることが多くなりました。ただ、例えば壮年期に腰髄損傷で下半身麻痺となり、ずっと車椅子で生きてきましたという方々が、みんなすぐに認知症になるか?といえばそんなことはありません。『歩けなくなることで他者との交流や社会生活がどんどん狭く少なくなっていく』ことこそ、認知症を誘発してしまうと認識するべきでしょう。逆にまだまだお元気でしっかり歩ける方が家の中に籠ってしまっては、身体機能も認知機能もどんどん低下していってしまいます。(廃用性機能低下)

 「歳をとっても友人などと付き合い、社会生活を豊かに」となると、一般的には女性の方が有利で男性の方が不利ですね。女性は若い頃から近所の方との付き合いが豊かであってそれは歳をとっても変わらないのに比べて、男性は「職場での人間関係」に限られてしまいがちで、お仕事を辞めてしまった途端に「人付き合いの機会がなくなってしまう」ことが多いです。もちろん、性別に関係なく本人さまの性格にもよるでしょう。ただし「社会とのつながりが乏しくなると、身体も頭脳も衰えがちになる」ということは、ご本人さまもご家族さまも知っておくべきです。

 ただし「自立レベル」では、介護保険サービスは使えません。逆にまだ元気に歩けて認知症もないのに、車椅子利用者さんや認知症者さんの多いデイサービスに行きたい、参加したい、とも思えないでしょう。

 各市町村において、まだお元気な高齢者のための「集いの場」が準備されてもいますから、そういう場に参加するのも良いですし、そんな行政サービスを受けること自体が嫌だ!ということならば、例えば上記「介護保険デイサービスへ“ボランティア”」なんかはいかがでしょう?どの介護保険施設でも、「ボランティア」さんを歓迎してくれるはずです。もちろん内容は何でもよいのです。実際のデイサービス利用者さんの相手をしなくとも、例えば施設回りのお掃除や草取りなども大変に喜ばれます。そんなふうに、家の中に籠らないように、あるいは一人で黙って散歩だけではなく、社会生活を続けることが自身の健康の維持と増進に大いに役立つはずです。

良い靴を履きましょう

 そんな風に「外に出かける」ときには、ぜひ「歩きよい良い靴」を履いていただきたい、と思います。ところが実際の様子を拝見していると、実際にはあきらかに不適切と思われる靴を履いている高齢者さんが非常に多いのです。歩き良くない靴では、必要以上に身体に負担をかけ歩きそのものを悪くしていってしまいます。靴の影響は、今回の対象者である「まだお元気な方」よりも次回予定の「歩くのに支障が生じだしている方」の場合により顕著に現れますので、詳しくは次回説明します。

和式生活スタイルか?洋式生活スタイルか?

 伝統的な日本家屋は、畳にちゃぶ台、就寝は畳に布団が当たり前でした。これが「和式生活スタイル」ですね。最近は一般家屋でも、床張りの床にテーブルと椅子、寝具はベッドという家庭も増えました。これは「洋式生活スタイル」です。身体機能の面から言うと、洋式スタイルの方がずっと楽です。それは床上へ直接お尻を下ろすことが無いからですね。長年和式スタイルで暮らしてきてまだお元気なうちは、「畳に布団」でも大丈夫かもしれません。でも、段々と余裕がなくなっていくのも事実だと思います。日中しっかり覚醒している時ではなく、真夜中にトイレに行くのに暗い部屋の中で咄嗟に布団から立てない、というような状況が起きてきたら、洋式スタイルでまずはベッドを使いだした方が良いと思います。まだ大丈夫!というお気持ちもあるかもしれませんが、「新し生活道具や生活スタイルの変更には、“多少余裕のあるうちに”」が大原則となります。

いかがでしたか?次回からは「状態別在宅介護生活のポイント」シリーズを始めます。

プロフィール

大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。 急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。 現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。

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