第4回「状態別在宅介護生活のポイント② 歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方」
公開日:2025/04/22
前回はただお歳をとってきた、というだけで、まだまだ自立レベルの方向けのお話でしたが、今回はいよいよ心身機能の低下が明らかになってきている方が対象のお話です。
「歩行に支障が出だしている」とは、まだ一人で歩けるけれど特に屋外では杖があった方が楽、といった状態です。まだ直接に支援(介護)が必要な状態ではありませんが、今後、急速に老化/身体機能障害悪化が進んでしまうのか?必要以上の老化を少しでも防いで歳をとったなりの健康な生活が続けていけるか?将来の状態を大きく左右する大切な段階です。また認知機能については、認知症か?単なる物忘れか?はっきりしないけど、明らかに認知機能の変化が認められる、といった段階ですね。こちらも同じく、この段階での“過ごし方/対応の仕方”の違いで先々の状況が大きく変わってしまう可能性があります。この段階での身体機能面/認知機能面に対応していく上で大切なポイントをまとめてみます。
杖の準備~管理
「杖を使った方が楽」ということですから、まずは杖がきちんと効率よく使えていないといけません。準備と管理が必要です。
杖の長さ
一般的に杖の長さは「大腿骨大転子の高さ」とされていますが、分かりやすくは「普通に立った時の手首の高さ(腕時計のバンドの高さ)」に合わせてあげればよいと思います。
ただし、すでに「膝/腰曲がり」状態で歩かれる方の場合は大腿骨大転子の高さと手首の高さがぜん全然違ってしまいます。そのような方の場合は、「膝腰が曲がったなりの身長の半分の長さ」を目安にしてください。このように杖は本来、「使う人に合わせて準備するもの」です。杖の機能として長さ調整できるものであれば調整も簡単ですが、中には調整機能が無くて「長めの状態で売っていて、のこぎりで切って長さを合わせるもの」もあります。そのような杖を長いままで使っている方を見かけることもあります。
杖を持つ側
普通、杖は一本だけ使いますから左右どちらかで持つことになります。左右のどちらかというと「身体の具合の悪い側の反対側=良い側」が基本です。つまり左膝が痛いのであれば右手に、ですね。もちろん、左右に持ってみて本人様が使いよい側でも構いませんし、時には左右を持ち替える、ということでも構いません
杖先ゴムの管理
杖の先には杖先ゴムがついています。先ゴムは減ってしまうと、杖がすべりやすくなってしまいます。使い方にもよりますが、激しい人では1年以内に先ゴムがダメになってしまう方もいます。自動車のタイヤと一緒で先ゴムの溝が消えかけている状態になってしまったら、先ゴムを交換してあげましょう。
痛みと体重の管理
杖を使った方が楽になってきている、という場合、「痛み」があるから、杖を使った方が痛まないから、ということが少なくありません。もちろん、杖を使った方が痛まないのならば使って構わないのですが、同時にその痛みはどうしようもないものなのか?少しでも楽になれないのか?きちんと医療的に管理~治療しましょう。
靴の選択へ 歩きやすい靴の選び方
痛みに対してきちんと医療的管理しつつ杖を使うと同時に、見落としてならないのは「靴」です。杖を使った方が楽な状態ならば、靴も「歩きやすい靴」を履くべきですね。ところが実際には、いかにも合っていない、歩きにくそうな靴を履いている方をたくさん見かけます。歩き良い靴の見極め方は、以下のようになります。
サイズが合っていること
サイズの合っていない靴はそれだけでも歩きを悪くします。靴のサイズには2種類あって、「靴の長さ」と「靴の幅~周りサイズ」ですね。
例えば、長さは女性ならば24(cm)とか男性ならば26(cm)とか。幅~周りサイズは「D/E/3E」といったアルファベットで表してあり、幅が大きくなるほどアルファベットが進みます。「24/3E」といった表記がされていますね。一般的に高齢者の場合、幅~周囲サイズは3E以上が適合になる方が多いです。幅~周囲サイズが小さすぎる靴では痛みの原因になったり、痛むことを避けるために長さの大きすぎる靴を選んでしまって踵がカパカパしてしまったりします。
靴先が柔らかく曲がると同時に土踏まずから踵にかけてはしっかりとしていること
人が歩くとき、足の指で地面を後ろに蹴るように歩いています。その際、足の指は地面をつかむように足の背に向かって反ります。靴底がその動きを阻害しては歩きにくくなってしまいます。つまり、靴の先の方が柔らかく折れないと歩きにくい、となります。それでも力の強い方はどうにかなりますが、杖が必要なレベルになると極端に歩き方が違ってきます。靴を選ぶ際は、手にもって見たり座りながら履いてみるだけでは分かりません。左右の手で靴を挟み持ち、えいっと力を加えて靴先が柔らかく曲がることを確認することが必要です。
踵がきちんと収まり落ち着く構造のこと
踵が固定されないサンダルやスリッパでは歩きにくいですね。歩いている時に踵がきちんと固定され安定していることは歩きやすさのためには絶対に必要です。ただしそのような靴の場合はえてして「履きにくい」ということが起こります。スポッ!と踵が入りやすいということは、逆に言うと抜けやすい、ということにもなりかねません。その点で最近は、立ったままでも踵を収め履きやすく、歩いている時はしっかり固定されている、という靴が紹介されるようになっています。
つま先よりもかかとが少し高いこと。
一般に歩きが悪くなってきた高齢者は、重心が後方に崩れやすくなります。逆に言うと歩く際にグイグイと体が前に出にくくなります。それを補うために、「靴のかかとがつま先よりも少し高くなっていること」も大切です。2~3cm程度でしょうか?もちろんハイヒールのように細く高くなっているのではなく、広い面全体で高くなっていることが必要です。そして歩き良い靴を履いて盛んに歩いていると、靴のかかとがどんどん減っていきます。昔は減ってしまった靴のかかとを修理して使い続けることもありましたが、最近の靴は修理が効かないことが多いかと思います。時に靴のかかとを確認して、あまりに減ってきている/左右の靴の高さが違ってきている/靴が左右に傾いている、といった状態になったならば、ケチらずに買いなおしましょう。
知られていない「中敷き」の重要性
以上のように歩きやすい靴を選べた上で、人によってはさらに「靴の中敷き」を適切に選択~準備することで劇的に痛みが改善して歩きやすくなる、ということが起こります。しかし、そのこと~中敷きの重要性が一般には知られていません。先に書いた「痛み」がある場合には、半来は中敷きにも配慮すべきです。
一般的な一定の厚みをもった中敷きの他、状態によって準備される中敷きの機能には以下のようなものがあります。最近は100円ショップでも、以下のような「靴中敷き調整グッズ」が販売されていますので、安価でもありますし試してみる価値があります。
アーチサポート
土踏まずを下からしっかり支えるふくらみ。歳をとってくると土踏まずが潰れてきて、足部の中央に痛みを感じるようになる方がいます。そのような場合は適切なアーチサポートが加わると、劇的に状況が改善することがあります。
中足骨パッド
外反母趾(足の親指の付け根が外側にとび出ている状態)や足指のウオノメ/タコ、巻き爪などで「足指に痛み」がある場合に、「足指の付け根の関節のややかかと側」にしっかりとした膨らみを設けてそこにしっかりと体重がかかり、足指に負担のかからないようにします。
外側楔(ラテラルウェッジ)
特に女性に多い「O脚」で膝に痛みがあったり、その変形のために歩くと左右に身体が動揺するような場合に、「踵の外側を内側よりも少し高くする」ことでO脚を真っすぐに補正し左右動揺を抑えることができます。痛みが軽減し歩きやすくなるだけではなくO脚変形の悪化を防止する効果もありますから、例え痛みを感じていない方でもO脚の方は変形予防のためにも外側楔中敷きを使うべきです。
踵や小指外側のうおのめ/タコの除圧
うおのめ/タコの痛みで多いのは、足の小指の付け根外側です。この場合は厚めの中敷きとして小指付け根外側部だけえぐって当たらないようにしたり、うおのめ/タコを囲むようにドーナツ状のパッドで当たらないようにします。
以上のような中敷きへの配慮は、高齢者だけではなくお仕事で立ったままでの時間や歩行量の多い壮年者は積極的に活用すべきものです。中年期からそのような配慮をしていくことで、歳をとってからのトラブルを避けることにもなります。
さて、今回は杖と靴に関する説明でほどほどの量となってしまいました。「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状のある方」に対して、さらに配慮したい住環境等については次回いたします。
大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。
急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。
現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。
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